INTERVIEW

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末光弘和+末光陽子/SUEP.
都市で実現する新しい環境建築

Photos_Kohei Yamamoto(landscape),Ko Tsuchiya(portrait) / Writing_Chisa Sato

2023.08.04

渋谷区代官山駅前に誕生するサステイナブルな活動拠点〈CIRTY(サーティー)〉は、緑に包まれ、開放感に溢れた六角形の木造建築が印象的な建物。この建築を設計したのがSUEP. の末光弘和さん、末光陽子さん。2003年に設計事務所を立ち上げて以来、自然との共生をテーマとした建築をデザインしてきた二人に、「環境建築とは何か」を聞きました。

サーキュラーエコノミーを発信する拠点として

生まれたSUEP.の構想と設計

末光弘和(以降H):これまで「自然との共生」をテーマに掲げて、設計活動をしてきましたが、今手掛けている建築のデザインを地球全体の話とどのようにつなげるかというのは、毎回大きな課題です。今回は、都市と森の循環ということを考えました。都市で暮らしていると、森は遠いことのように感じますが、その距離感を近づけようと思ったのです。岡山県西粟倉村にある「森の学校」という会社と提携し、そこで出た間伐材を活用しています。「森の学校」は健康な森をつくるために、良材のみを伐採するのではなく、劣勢木の間伐を推進するというユニークな取り組みを行っている会社です。その間伐材を構造体に使うことにより、都市で建物をつくることが森を健康にすることにつながるという仕組みです。

写真提供:SUEP.
写真提供:SUEP.

2つ目は、再建築可能な建物をつくることです。CIRTYは期間限定の実験的なプロジェクトという位置付けなので、いずれはなくなる計画です。これまではスクラップ&ビルドでつくっては壊し、廃棄されるのが当たり前でした。ここでは、解体した後も再建築できるように設計しています。六角形の建物はジョイントでつながっていて、すべての木材がバラせるようになっている。解体して別の場所で組み立てることができるのです。

3つ目は、地域での循環です。屋上菜園で育てたハーブや野菜を使ったフードメニューをカフェで提供したり、代官山エリアのフードウェイストの活用なども視野に入れ、ソフト面での循環も企画しています。

末光陽子(以降Y):今回のプロジェクトでは、建築設計と企画運営が一体となり、チームとしてCIRTYのあり方や活動を考えているので、建築というハードだけでなく、ソフトとしても場づくりに関われるのが大きいですね。例えば、飲食費の一部を森にドネーション(寄付)できる仕組みがあり、外壁に使われる六角形のパネルには、ドネーションした人の名前を入れることも考えています。六角形は建物の外観デザインや柱にも採用していて、CIRTYを象徴するかたち。自然界ではハチの巣にも見られるように、結合したり、接続しやすく、安定した形状です。CIRTYが人や地域のハブとなって、環境への取り組みの輪が広がっていくことをイメージしています。

建築だけでなく、日々の活動に触れ、体験できる

自然体のサーキュラームーブメント

Y:環境意識を醸成する場になればと思います。食に関しては産地や生産者の顔が見えるような食材が増えてきましたが、建築は材料がどこからきて、誰がつくったものなのか、意識が及ばないところがあります。森を育てる人がいるから木が届くという流通が見えるようになると、自分ごとにしやすいのではないでしょうか。日本は森林が多く、良い木材がたくさんあるのに、山は放置され輸入材に頼っている現状があります。日本の森のことを知り、国産材がもっと身近になって、親しみが持てるようになればと思います。

H:ここは建築が主役ではなく、使う人が主役になる場所です。木造の建物で、緑が豊かで気持ち良いなと感じる人もいれば、スローフードのジェラートやイベントを楽しむ人もいる。それぞれの感じ方や関わり方を受け入れるような大らかで開放的な建築を意図しています。

プロジェクトを通じて改めて考える

これからの環境建築

H:これまでの環境建築は、太陽光発電など環境設備の仕掛けやパッシブデザインの手法を取り入れることが主流でした。日射や遮熱を工夫したり、断熱性や気密性を高めたり、通風を考慮したりと、建物のベースを設計してきたわけです。今回のCIRTYでもZEB(ゼロエネルギービルディング)の基準値を満たす、断熱性を確保し、日射コントロールをしています。けれども、性能や数字を追っていくと、窓を小さく、壁を厚くなど、だんだんと排他的な佇まいになっていく。

一方で、地球環境の問題というのは、いろいろな人に関わってもらって、広く共感を募るようなあり方が理想です。例えば、グリーンがあったり、木材を使っていたりすると、心地良く思えて、自分もやってみたいと気持ちが動きますよね。そこで、最近はベースとなる性能は押さえながらも、共感しやすさにシフトしています。難しい数字の話をして一部の人しかできないと思われるより、誰でも真似できる技術になると良い。それが結果として、地球環境を守ることにもつながると思います。

Y:環境建築という時に建物の性能の話ばかりになると、結局、魔法瓶をつくるみたいなことになってしまうんです。魔法瓶の中に人が住んで幸せなのかと考えると、疑問です。建築の性能や地球環境を優先するばかりでなくて、自分が快適で幸せであることも考えて、そのバランスをどこで取るか。都市で普通に暮らしている人が共感してくれたら、それが一番継続性につながると思っています。ここでサーキュラーな体験をしてもらって、それぞれのバランス感を持ってもらえたら、うれしいですね。

これまでの環境建築ってデザイン的にスマートじゃないと思われていたけれど、今は、若い人ほど環境に対して前向きです。サステイナブルなことが「かっこいい」というカルチャーに変わってきた。かっこいい生き方だと思われないと、変わっていかないと思う。社会全体がシフトしていく中で、開発の仕方も変わっていくでしょう。いろいろな人がその人なりの形でサステイナブルな活動を続けることが大切だと思います。

SUEP. スープ

末光弘和と末光陽子が共同主宰する一級建築士事務所。東京と福岡の2拠点にアトリエを構え、国内外で活動中。地球環境をテーマに掲げ、風や熱などのシミュレーション技術を用いて、資源やエネルギー循環に至る自然と建築が共生する新しい時代の環境建築デザインを手がけている。http://www.suep.jp/