INTERVIEW

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たのしく育てて、たのしく食べる
アーバンファーミングの可能性

自然の少ない都市部でも、土に触れ、野菜を育てる、アーバンファーミングが注目されています。CIRTYの屋上にも、雨水を活用し、リサイクル土壌を使用したサステナブルな菜園がオープンし、カフェで提供する野菜やハーブを育てています。そうした都市農園を先進的なIoTテクノロジーで支え、誰もが楽しく農的な活動ができる事業を展開する、プランティオ。CIRTYの菜園にも同社のセンサーが使われています。CEOの芹澤孝悦さんに都市で農的な活動をする意味を聞きました。

Photos Ko Tsuchiya, Writing Chisa Sato

2023.10.25

オフィス街の中心、東京・大手町の歴史あるビル屋上に、シルバーのプランターが並び、野菜が育つ、農の風景が広がっています。『The Edible Park OTEMACHI by grow』はアーバンファーミングの拠点として設けられたシェアリング型コミュニティ農園。近隣のオフィスワーカーが立ち寄っては、水やりをしたり、収穫をしたり、ランチを食べたり、思い思いに過ごしています。

growのコミュニティメンバーは日々アプリをチェックして自主的に栽培、収穫を行う。時にメンバー主催のイベントも行われるのだとか。

「私たちが展開する農園『grow FIELD』は、市民農園のように、個人が一定の区画を借りるのではなく、コミュニティメンバーで共有するシェアリング農園というスタイルです。日本では貸し農園が主流ですが、グローバルでは地域で食を共有するコミュニティ型の農園が多い。そうしたシェアリング農園を支える鍵となるのが、独自に開発したセンサーです。土壌温度や湿度、気温、日照時間などの6種類のデータを測定し、アプリと連携してその日に行う栽培作業を通知してくれる。それによって、経験の少ない人同士でも気軽に野菜やハーブを育てられるという画期的なシステムです。アプリでチェックインすると、その日にやるべき作業を教えてくれる仕組みになっています」

プランターからのぞく体温計のようなセンサー。このセンサーが野菜の育成状況を把握し、水遣りのタイミングや芽欠きなどの栽培作業、収穫のタイミングまで教えてくれる。収穫した野菜は、自分たちでイベントを企画して、みんなで料理して食べたり、持ち帰ることも可能。芹澤さんは最新のテクノロジーを使いながら、楽しく農的活動をすることを提案しています。

プランティオ CEOの芹澤孝悦さん。『The Edible Park OTEMACHI by grow』にて。

「私たちはエンターテイメントと農を融合した“アグリテイメント”を提唱しています。IoTセンサーというテクノロジーの力を借りてハードルを下げ、誰もが参加できるエンターテイメントとして、農をライフスタイルに取り入れてもらいたいと考えているのです」

一方で、育てる野菜は、小松菜や胡瓜など、江戸の伝統野菜が中心。それも苗ではなく種から育て、種採りも行います。化学肥料を使わず、有機肥料のみで育てる硬派な一面も。持続可能なアーバンファーミングのあり方に目を向けています。

「アーバンファーミングをする上で最も重要な土とタネは循環させ、繋いでいく。そのためのサステイナブルな農のあり方にチャレンジしています。日本のタネの自給率は10%を下回るくらい低く、外国から買ってきたタネが大部分を占めます。そこで、僕たちはシェアシードというプラットフォームをつくり、採取したタネをローカルで繋ぎ、誰もが使えるようにシェアしています。また、日本の化学肥料の自給率に至ってはゼロで、100%輸入に頼っています。『grow FIELD』では、化学肥料を使わず、コンポストで生ゴミから堆肥をつくり、有機肥料によって育てています」

こうした活動を展開する背景には、芹澤さんの祖父が植木鉢“プランター”を発明し、都会でも誰もが手軽に農に触れて欲しいと、家庭菜園を広めたという経緯があります。芹澤さんはその思いを受け継ぎ、現代にアーバンファーミングを広めようとしています。

「既に世界の主要都市では、アーバンファーミングが実装されています。ニューヨークのブルックリンでは、3~4棟に1棟の建物に屋上農園があるのは当たり前。ロンドン市内には3000カ所の農園があります。世界でアーバンファーミングが広がる背景には、食への不安や心配がある。農薬を使用し、遠くで生産した食材ではなく、自分たちで安心、安全な食にアクセスできるようにしたい。そうしたフードインフラの整備という意味もあるんです。日本の農業も担い手が高齢化し、自給率も低く、薄氷の上にある。そうした社会的な潮流は踏まえつつも、“楽しく育てて、楽しく食べる”ことが最も持続可能だと考えています。CIRTYがその発信拠点となっていけば素敵ですね。多くの人が農の魅力に気づき、触れるきっかけになれば。それが農から最も遠い都会で、活動する意味になると思います」

芹澤 孝悦 Takayoshi Serizawa

プランティオ共同創業者/CEO。大学卒業後ITのベンチャー企業へ。エンターテインメント系コンテンツのプロデューサーを経て、日本で初めて“プランター”という和製英語を発案・製品を開発し、世に広めた家業であるセロン工業へ。男性から女性に花を贈るフラワーバレンタインプロジェクトの立ち上げや、2012年には業界最大の国際園芸博覧会フロリアードの日本国政府スタッフとして参画。60年前に開発された元祖“プランター”をその当時の熱い開発マインドと共に今の時代にあった形で再定義し、次世代の新しい”人と植物との関りかた”を模索する三代目。https://plantio.co.jp/