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SWiTCH 佐座マナ
自然と共存できる街づくり
Photo(portrait)_Ko Tsuchiya / Writing_Fumika Ogura
2023.10.10
循環型社会の実現を目指し、日本の若者たちと企業・自治体をつなげるプラットフォームを運営している一般社団法人「SWiTCH(スイッチ)」。2025年の大阪・関西万博に向け、100万人のサステナブルアンバサダーを育成しようと、教育プロジェクトを進行中。今後はこの代官山フォレストゲートもこのプロジェクトの活動拠点にする予定で、さまざまなことにチャレンジをしていく場となっていくそう。今回はそんな「SWiTCH」で代表を務める佐座マナさんに、「SWiTCH」の取り組みや今後の展望についてお話を伺いました。
どうすれば人と自然が共存できるのかを
考え始めた幼少期
佐座さんが環境に興味を持ち始めたのは、幼少期の頃。テレビで放映していた映画「もののけ姫」を観たことがきっかけだという。
「主人公のアシタカが発した『森とタタラ場、双方生きる道はないのか』という言葉を聞いて、子どもながらに『そうだよね』と、共感しました。毎日の暮らしを送る中で自然よりも人工物に囲まれていることに違和感を覚えました。例えば、よく遊びに行っていた公園でも、遊具はたくさんあるけど、木がそんなに生えていなくて。これがもしジャングルのような場所だったらもっとステキだろうなと思っていました」
福岡市内に住んでいたという佐座さん。家の近くには海や山があり、潮干狩りや山登りなど、季節ごとに自然の体験をすることが当たり前だったという。通っていた学校でも、気候変動や、温暖化など環境問題について教えられていたそう。
「授業のなかでも、気候変動の何について興味がありますか?という踏み込んだ部分についても教えられていましたし、自分の行動が、どのように気候変動へ影響を与えているのかという具体的なことまで学んでいました」
幼少期から学生時代にかけて、コンスタントに環境問題について学んでいたという佐座さん。高校時代には国連のプログラムに参加し、インドネシアやカンボジアで家を建てるボランティアに参加。卒業後は、海外の大学へ進学し、生態系の回復のプロジェクトや、先住民族や文化の多様性に関するプロジェクト運営にもかかわり、サステナビリティへの関心がさらに深まったのだそう。
偏っている発想に気づき
「SWiTCH」が生まれた
大学を卒業後はロンドンの大学院へ進学。そんな佐座さんがSWiTCHを立ち上げることになったのは、大学院生活でのクラスメートとのとあるやり取りが起点になったという。
「40名ほどクラスメートが居たのですが、ロシアや南アフリカ、インドにチリなど、文化や話す言葉も違うところから集まって来ているメンバーでした。それぞれ内閣府や環境省など、いろんな研究機関から派遣されてきていることもあり、『この地球上で生きていくためにどうすればいいか』を本格的に考えていける人たちがそろっている環境でした。日々さまざまな意見を交換をするのですが、仲のいいペルー人の友人に、『マナの提案は、お金やインフラが整っているからできること。日本ならできるかもしれないけど、ほとんどの国がそうじゃないからね』と、指摘を受けたことがあったんです。クラスメイトのなかでも、夜はろうそくの灯だけで勉強していたり、蛇口から茶色い水が出てきたりするなかで暮らしていたメンバーもいて。自分が偏った考えをしていた事実に気付かされたと同時に、逆にお金持ちの国に住んでいるからこそ、私が何をしていくべきなのかを考えさせられたんです。この出来事が、SWiTCHをスタートする起点になりました」
そんな学院生活を送っていた佐座さんだが、2020年に起きた新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、日本に一時帰国した。
「このパンデミックを理由に、グラスゴーで毎年行われるはずの国連主催の気候変動枠組条約締約国会議=COP26が翌年に延期になり、私たち若者の間で、『来年開催すればいいよ』と、言っている場合じゃないだろうという話があがりました。この会議は、国際的に気候変動対策について対話するとても大切なもの。大人たちは、気候変動の大打撃を受ける前に亡くなるからいいかもしれないけど、実際に影響を受けるのは、私たち10代や20代、そしてこれから生まれてくる子どもたち。”今”の大人たちがCOP26を開催しないなら、私たちが模擬版のCOPを開催しようと、オンラインでMock COPを開催しました」
そして、世界140カ国から330人の環境専門の若者が参加したMock COP。そこで気候変動を食い止めるために、何百ものアイディアを出し合い、18個の政策を提言した。
「18個の提言があるなかで、一番投票率の高かったものが、『気候変動教育を義務化する』というもの。これを提言にとどめずアクションにつなげるために、COP26の会場で気候変動教育サミットを開催し、日本を含む20カ国から署名をもらいました。その活動をしていくなかで、日本企業や自治体のリーダーとお話をする機会があって、『COP26の活動をやっています』と話すと、『面白い活動だね! けど、環境は、やってもやらなくてもいいオプションだよね?』と、言われ、ショックを受けました。日本は技術もあって先進的で、素敵な人たちもたくさんいるのに、地球ひとつで暮らしていく範囲をはるかに超えて、自然から搾取しているという危機感の認識がないんだと思ったので、やっぱり教育を中心とした活動をしていかなければならないと思い、2021年1月に一般社団法人『SWiTCH』を設立しました」
環境について考える人が増えることで
新しい社会が生まれていく
佐座さんが立ち上げた「SWiTCH」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃に抑える『パリ協定』を実現し、地球1つで暮らしていくために「1.5℃チャレンジ」をスタート。動画やクイズをまじえたEラーニングでリテラシーを向上でき、好事例も多様に紹介する。
「環境が中心にあることをみんなが認識したら、暮らしや仕事の働き方など、すべてが環境中心になると思っています。それを実現するためには、それだけの人材が必要です。そのために、国連環境計画とタッグを組んで Eラーニングプログラムを作成しました。教材の内容は、地球環境についての基礎知識と行動変容のためのノウハウです。例えば、『SDGsは、生態系がベースで、生態系の安定の上に、社会活動や経済があること』や、『”作る→使う→捨てる”という直線的な消費ではなく、”資源を使い続ける”という資源を循環させる消費へとシフトするための事例』などが、書かれています。教材にとどまらず、渋谷区の小学校や、札幌市の高校などでレクチャーやワークショップを、パイロット版で初めています。これからまず100万人を目指し、日本全国の高校生や大学生に教えていきたいと思っています」
そんな活動をしていくなかで、代官山「CIRTY」でも、この場所を活用して「100万人のアンバサダー育成」をしていきたいと話す。
「やっぱり渋谷という街は特別で、世界中から人が集まるカルチャーの発信地であり、若者の街でもありますよね。一方、代官山は、暮らしに寄り添った街で、ライフスタイルが生まれるエリアです。対照的な2つの街のあいだで、これまでになかった新しい価値観が生まれていくと思っています。『CIRTY』という新しいスペースで、世代や業界を超えた代官山発のサステナブルな暮らしや働き方に関するコンテンツ作りや、コミュニティ作りなどさまざまなチャレンジをしていきたいです。頭でっかちでなにもしないのではなく、実際に対話をして体験することが大事だと思っているので、代官山で暮らしている人、代官山を訪れる人たちと、この場所だったら、どんな循環型社会が作れるのか、地球ひとつで暮らしていくために、何から変えていけるかを一緒に考えていけたらいいですね」
佐座 マナ Mana Saza
1995年生まれ。カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院 サステナブル・ディベロプメントコース卒業。Mock COP グローバルコーディネーターとして、140ヵ国の環境専門の若者をまとめ、COP26と各国首相に本格的な18の政策提言を行い、世界的な注目を浴びる。COP26日本ユース代表。2021年「一般社団法人SWiTCH」を設立。現在は2025年大阪・関西万博に向け、100万人のサステナブルアンバサダー育成プロジェクトを推進中。https://switch.bio/